iGEMをチーム立ち上げから経験してみた
はじめに
この記事はiGEM・Synthetic biology (合成生物学) Advent Calendar 2020 の3日目の記事です。
早稲田大学のiGEMチーム,iGEM-Wasedaは今年度の大会において,初出場でGold Medal & track awardを獲得することができました。iGEMをチーム立ち上げから経験した中で,来年度以降参加予定の方に少しでも参考になりそうなことを書いていこうと思います。
合成生物学との出会い
突然ですがみなさんはポケットモンスター ダイヤモンド/パール をご存じでしょうか?
2006年に発売された任〇堂DS向けのポケモンソフトで,今なおリメイクが待ち望まれているポケモンの名作です。
では,ダイパの最も魅力的なところはなんでしょう....
それは「なぞの場所」です()
知らない方のために軽く説明すると「なぞの場所」とは,通常プレイしているだけでは決してたどり着くことのできない場所です。ある部屋である技を使って,そこから右へx歩,上へy歩,左へz歩....というように決まった動きをすると行くことができ,そこには伝説のポケモンがいます。
私自身,小学2年生のころにダイパをプレイしていましたが,純粋無垢であったのでまさかこんな裏技があることは知りません。決められたルールの中,見えているものが全てだという気持ちで楽しんでいたと思います。
そんな中,いくつか年上の従弟からこの裏技を教わり,ダー〇ライをゲットすることができたました。そこで私は,ゲームの作者がこのようなことを予め仕込んでいること,それを発見して再現することでこのような報酬を得られることに凄まじい衝撃を覚えました。
この体験が元となって物事の仕組み,一番深層で原因となっているものに強く興味を持つようになりました。
そして我々生物にとって一番深層で原因となっている=我々を我々たらしめているのは何でしょうか。そう,ゲノムです。
このことをどこかで知った私が次に考えたのは,じゃあゲノム(=プログラム)を書き換えれば我々人間も改造できるのではということでした。
こうした考えを根底に持ちつつも,何か自分で勉強したりするわけでもなく無為に小中高と時間が過ぎていました。が,大学の学部選びになったとき,生物の改造を学べる分野はないかと探していたところ,ついに合成生物学とそのコンテスト・iGEMに出会ったわけです。
めでたし×2 !
ポケモンから始まってiGEMに繋がるまでかなり長くなってしまいましたが,お付き合いありがとうございました。
要するに,何かをハックする・自分の思い通りに動かすということの面白さに気づかせてくれたのはダイパのなぞのばしょバグだったというわけです。
これがなければ合成生物学というすばらしい学問に出会うこともなかったと思うと,ゲームフ〇ークさんには感謝してもしきれません。
iGEMをやる上で重要な要素
ここからはちゃんとiGEM関連の事について書いていきます!
テーマ
全ての根幹となるテーマは慎重に決めなければいけません。
我々のチームはかなり特殊なテーマ設定方法なので、一般的な話をしておきたいと思います。
近年のiGEMにおいて強いチームは大抵テーマ設定の段階で勝ってます。
その傾向としては、「地域特有の問題に対して」「専門家の意見を取り入れながら」「合成生物学を用いて解決する」というものがかなり強いです。
今後のiGEMは単純にbiobrickの面白みではなく、どれだけSDGs的に社会貢献できるかの勝負になっていくような気がします。
加えて、チームPIとの話し合いも重要です。自分たちの中で決定してもPIの方の専門外であったり、PIから見て難しいと判断された場合は取り組むことができません。ですのでテーマ決めの早い段階からPIと綿密にコミュニケーションを取って、一緒に決定していくことをおすすめします。
プロジェクトを進めていく上で
iGEMをメダルを獲得するための大会だとすると、1つのプロジェクだけを進めていた場合、それが進まなくなるとその年の挑戦はそこでお終いになってしまいます。
そうならないための手段としては複数プロジェクトを並列で走らせるという技があります。
しかし、この複数プロジェクトの並列というのもそう簡単な話ではありません。
今年度の早稲田チームは実際、保険として4つほどプロジェクトを並列して走らせたのですが、良くも悪くもプロジェクトが4つとも上手く行ってしまいました。というより途中で切ることが出来ずに各プロジェクトで頑張りすぎてしまいました。
もちろんその結果合成生物学の研究大会としてはトップクラスの量・質の研究成果を出すことができたと自負しております。が、各メンバーの負担が増えすぎてしまったという負の側面も強く感じられました。
1つのプロジェクトにおいては、サーベイ、実験系の立ち上げ、実験、まとめまで1人で行ったものもありました。 (その人が強すぎたのもありますが...)
ですので、複数プロジェクトを行うのであれば,一つのプロジェクトごとに最低でも実験者3人,dry&サーベイ担当2人以上が当てられないと辛いと思います。そうできない場合は最初からプロジェクトを立ち上げない方がマシです。
加えて,プロジェクトを並列させてその中のいくつかが最後までうまくいった時に,それらを上手く繋げられるかというのも考えておく必要があります。
これも実体験になりますが,我々はあまり脈絡なく複数プロジェクトを走らせたため,最後にはむりやり一つにまとめなければいけなくなってしまいました。その結果全体として流れがつかみにくく,分かりにくい発表となっていたと思います。
やはりiGEMでは問題提起から解決方法,実験結果まできれいに筋が通っているチームが高く評価されます。(なんでもそう。)
もし来年度以降,複数のプロジェクトを走らせようというチームがあったら以上の点に留意していただけるといいと思います。
実験/Wiki について
最初に申し上げておくと,iGEMの実験は体育会系です。(うちだけかも???)
少なくとも卒論レベルの研究内容を3~4カ月でまとめ切らなければならないのですから,その作業量はかなりのものになります。
加えて我々が相手にするものは(基本的に)生物です。彼らのペースに合わせてこちらも実験スケジュールを組み立てなければいけないですし,思い通りに行ってくれないことの方が多いです。
数日かけて準備したものが1つの工程ミスで無に帰すことも少なくありません。。。
そのような苦難の連続の中で,どれだけ精神状態を保ちながら実験を続けられるかがiGEM最大の試練です。
精神状態を上手く保つためにはやはり、作業の分担が一番重要だと感じました。プロジェクトの進め方のところでもお話しましたが,一つのプロジェクトに対して数名wet実験者が分担することで,お互いの精神状態だけでなくチーム全体の雰囲気を良く保ち続けることにも繋がります。
もう一つ伝えておきたいことが 実験の締め切り です。
iGEMで行う必要のある活動は言ってしまえば wiki をまとめること ただ一つです。このwikiに書くコンテンツを作るために実験であったりhuman practiceであったりと様々な活動をしなければいけないわけです。
いくら実験をして,いい結果が出たとしてもそれを上手くまとめることができなければ審査員視点では何もしてないのと同義です。
ですからiGEMerは実験に集中しすぎず,wikiをきれいにまとめることに早めに力を注ぐべきなのです。
今年,iGEMを経験してみて感じたのは, wiki freezeの一カ月前,遅くとも3週間前には実験を終わらせて全員でwiki作成に取り掛かるのが理想かなというところです。(かなり理想です。。)
英語で文章を書くのは思っているよりも時間がかかります。figの不足や,誤字脱字もいっぱい見つかります。
ですので実験の締め切りはきっちり決めて,wiki作成は早めに行った方がいいということを皆さんにお伝えしておきます。
その他
covid-19の影響もあり,iGEMでのプレゼンは今後ビデオコンテンツが主流になっていくと思われます。
そして,十分満足のいく出来のビデオを1から素人が作るのは想像を絶するほど大変です。
それなのに強い海外勢は映画かと思うぐらいのクオリティのものを出してきます...
なのでビデオ作り+イラスト担当についてはプロジェクトの初期段階から決めて,集中的に取り組ませた方が良いです。
結局iGEM2020のfinalistたちはその研究内容もさることながら, wiki・ビデオの完成度が圧倒的でした。
今後のiGEMで金メダル以上の成績を残すためにはそういったところにも力を入れていく必要がありそうです。
まとめ
ここまで拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。iGEM全体のアドバイスというよりも,自分の後輩への申し送り事項っぽさが強くなりましたね(笑)
最初のダイパの下りは完全に要らなかったと思いますが,いつかどこかで書いてみたかったので許してください。
iGEMについてわりと負の側面が多くなってしまったかもしれませんが,もちろんこの活動に参加することで得られるものはとても多いです。
学部生のうちからチームで研究を行い,世界へ向けて発表するという一連の流れを経験することはこの先の人生において大きなadvantageになるでしょう。
また,合成生物学を研究していく上で社会との関わりについて考えることはとても重要だと思います。iGEMはそのための絶好の機会でもあります。
今後より多くの人が日本からiGEMに参加し,合成生物学の輪が広がっていくことを切に願っています。